研究実績の概要 |
研究目的 マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF-MS)の質量較正物質はタンパク質などが一般的であるが、生体分子よりも扱いやすく保存性に優れた無機塩のヨウ化セシウム(CsI)から生成するCsIクラスターイオン((CsI)_nCs^+, (CsI)_nI^-)の観測を質量較正に利用する方法を検討した。 研究方法 無機物のMALDIプロセスに有効なマトリックスであるDCTBを用い、ヨウ化セシウム(CsI)または三ヨウ化セシウム(CsI_3)からのCsIクラスターイオン観測に有効な条件(溶媒の種類や助剤添加の効果)を探索した。 研究成果 1. これまでにMALDIプレート上でCsI水溶液とDCTBエタノール溶液を混合し、さらに単糖(フルクトース)や二糖(スクロース)の水溶液を添加すると、乾燥時に膜のような状態を形成し、DCTBの分散状態を改善してCsIクラスターイオンの観測を促進することが分かっていたが、本研究では三糖(ラフィノース、メレジトース)も同様の効果があることが分かった。一方、膜のような状態を形成する化合物についてポリビニルピロリドンのような高分子やエチレングリコールを検討したが、いずれも効果がないことが分かった。 2. CsIで効果のあった糖水溶液をMALDIプレート上のCsI_3溶液とDCTB溶液の混合液に添加すると、CsIクラスターイオンは観測されなくなることが分かった。しかし、DCTBを用いずにMALDIプレート上でCsI_3溶液に糖アルコール溶液を添加すると、CsIクラスターイオンを効果的に観測できることが分かった。糖アルコールはグリセリン、エリトリトール、キシリトールが良く、また糖ではジヒドロキシアセトンに効果があり、m/z20000程度までクラスターが観測された。添加剤の溶液はアルコール溶液が良く、水溶液を用いるとCsI_3に起因する溶液の色が消失し、CsIクラスターイオンが観測されなくなることが分かった。 本内容の質量較正による質量誤差は100ppm以内に収まり、整数質量の測定などには十分な効果があった。
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