研究目的 : ヘリウムは軽く不活性、沸点が最も低い、危険性少ない、など優れた特長を持つため、研究・医療・工業に広く活用されているが、近年は世界的供給不足で価格が高騰しており、貴重な資源である。ただ分子直径が小さく漏洩しやすい欠点を持つ。小型の漏洩検出器は熱伝導度比較で検知する方式で、水素・窒素・アルゴン・二酸化炭素も検知してしまう。高精度の漏洩検出器はとても大きい装置で可搬性に優れない。またどちらの漏洩検出器も高価である。このような背景からヘリウムの漏洩を安価に検知できる新しい仕組みを探る。 研究方法 : ヘリウムの吸収スペクトルが発光スペクトル(587.56nm)近傍に存在すると仮定し原子吸光法を用いた。特定波長だけ選択的に透過させるBPFを使い、受光部に到達した光の強度でヘリウムの有無を検出する。LDではこの波長帯のものは存在しないため入射光を発する発光部にはピーク発光波長590nmの高輝度LEDを採用。BPFで波長幅を10nmに狭くし、受光部で信号増幅、A/D変換して、ヘリウムの漏洩を検知する仕組みの開発を試みた。またランベルト・ベールの法則に倣い、入射光が通過する光路長を長くすることも試みた。吸収スペクトルが発見できなかった場合は、白色の高輝度LEDを使い、可視光の範囲内でヘリウムの吸収スペクトルを探す。 研究成果 : この手法ではヘリウムの有無を観測することはできなかった。実験は常温・大気圧の下で行われたが、光路長を100mm確保しても、ヘリウムの有無は全く観測できなかった。ヘリウムは希ガスでありイオン化エネルギーが大きいため、通常は吸光せず温度・圧力・光量・入射光波長等で特別な条件があると思われる。原子吸光分析における関係文献にもヘリウムの記述は見当たらず、白色光でも全く検知できなかったということは通常環境下ではヘリウムの吸収スペクトルは現れない可能性も高いと考える。
|