国内で最も多様な哺乳類であるコウモリ類37種は、約半数が絶滅危惧種に指定されている。しかし、種としての特徴を示す生存率などの個体群自体の各種パラメータはほとんど明らかにされていない。これまで一つの個体群を20年以上継続して調査が行われた哺乳類は極めて少ない。コウモリ類は寿命が10年以上と非常に長いにため、20年以上継続して調査を行わないと生存率などの個体群自体の各種パラメータを明らかにすることは難しい。本調査地では、標識再捕法を用いて、1990年よりクビワコウモリ個体群の調査を継続して行ってきた。クビワコウモリの本来のねぐらは森林内の樹洞であると考えられるが、本調査地では森林を含む地域の人口構造物をねぐらとしていた。このため、個体群全体の確認がしやすいなどの大きな利点で調査を進めることが出来た。これにより、長期間にわたる個体数変動やねぐらの変遷についても調査することが出来た。今回個体群パラメータの推定方法として、recapture duration decay plottingの回帰直線を用いて、生存率φr、平均寿命Tr及び年あたり加入数を推定した。この結果、生存率φrは0.694、平均寿命Trは2.74年、年あたり加入数は99.1頭と推定された。このように野外におけるコウモリ類の生態を継続して実施することで、個体群の特性や特徴が明らかにすることができた。今後もこのような生態調査を継続して実施していくことで、よりコウモリ類の生態を明らかにすることができ、ひいてはコウモリ類全体の保護保全についての有益な知見が得られるものと考えられる。
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