埼玉県にはクロサンショウウオ、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、トウキョウサンショウウオの4種の生息が確認されているが、形態・色彩が極めて類似しており同定が困難なことに加え、成体を観察する機会が極端に少ないことから、確実な生息記録がないともされ、情報が不足している。本研究では埼玉県秩父地域の荒川源流域においてサンショウウオの生息調査を行い、捕獲個体からDNA分析に供するサンプル(尾部末端約3mm)を採取し、それを用いてDNA塩基配列解析を実施し、生息種の同定を行った。また秩父地域での種ごとの生息域を推定も試みた。 生息調査は春の産卵期から、砂防堰堤や沢のよどみ、淵など水域を中心に調査を行い、一昨年に採取したものを含め、8か所で計55体の幼体のサンショウウオを捕獲した。また陸域(山中の落ち葉の中)でも2か所で計2個体の成体のサンショウウオを捕獲し、DNA分析に供する合計57サンプルを採取した。得られたサンプルすべてからDNeasy Blood & Tissue kit(Qiagen)を用いて全DNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子の一部領域をPCRにより増幅し、ダイレクトシークエンス法を用いて塩基配列を決定した。次いで、決定した塩基配列をblast検索に供し種同定を行った後、最尤法により分子系統樹を作製して生息域と系統類縁関係を考察した。 得られた塩基配列を既報のサンショウウオ類の塩基配列と比較した結果、水域3か所・陸域2か所で捕獲された計34個体がヒダサンショウウオと、水域6か所で捕獲された23個体がハコネサンショウウオと非常によく似た塩基配列を持つことが確認された。また同一時期に同一場所で2種のサンショウウオが混棲することは確認されなかったが、流域や標高による棲み分けは確認できなかった。
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