研究実績の概要 |
日本を代表する野生ランの一種であるサギソウは、近年の環境の変化や乱獲により準絶滅危惧種に指定されている。サギソウが自生地で実生から生育するには、虫媒受粉により結実して多くの種子が形成されることが必要であるが、自生地におけるサギソウの種子形成の状況は明らかにされていない。 自生地で形成されるさく果の結実率が高く, かつ形成された種子の発芽率が高ければ実生生育に有利である. しかし, さく果結実率と種子発芽率が低ければ種子による繁殖が困難になり, 世代交代が緩慢となるために, 自生地の衰退は避けられないと推察される. 本研究では, 供試自生地における自然受粉によるさく果結実率と形成された種子の発芽率とを, 人工受粉によるそれと比較検討し, 自生地において形成される種子の特性を明らかにしようとした. まず, 実験1では供試自生地内の自然受粉区と人工授粉区のさく果結実率と種子発芽率を調査した. 実験2では実験1のさく果結実率を評価するために, 供試自生地から離れた他の自生地におけるさく果結実率と比較検討した. 実験3では実験1の種子発芽率を評価するために, 他の系統のサギソウ種子発芽率と比較した. さらに, サギソウの種子発芽率に影響する要因を探るために, 実験4ではサギソウの栄養状態による種子発芽率の差異を, 実験5では開花から受粉までの開花後日数がさく果結実率と種子発芽率に及ぼす影響を検討した. その結果, 自生地で形成されるサギソウのさく果結実率は18.4%と低かったが, 形成された種子の発芽率は約64%と高かった. この要因を検討したところ, サギソウの栄養状態が種子発芽率に及ぼす影響は認められず, 供試自生地に飛来する媒介昆虫が少ないことが推察された. また, 受粉時の開花後日数によって形成されるさく果の結実率および種子の発芽率は大きく異なることが明らかとなり, 開花後4~5日目の開花中期に受粉して形成されたさく果の結実率と種子の発芽率が最も高くなった. このことから, サギソウは開花後4~5日目に最も生理的受粉態勢が整い, この時期に昆虫が受粉を媒介して形成されたさく果の種子発芽率は高くなったことが推察された.
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