研究実績の概要 |
【目的】角膜上皮細胞の正常な分化と増殖には, 涙液中のフィブロネクチンなどの細胞接着因子や細胞の挙動を調節する蛋白質性の液性因子(EGF, TGF-βなどのサイトカイン)などが関与している。重症ドライアイなどに伴う角膜上皮障害では, 上記の各因子を含む血清を点眼剤(自己血清点眼液)として調製し, 角膜に適用する治療が行われる。過去に血清点眼液に含まれる蛋白質成分が調製時に用いるフィルターに吸着する可能性があることを報告した。今回は上記蛋白質成分のフィルターへの吸着率を定量的に評価し、自己血清点眼液調製時に用いるフィルターの選択基準を示すことを目的とした。 【方法】フィルターの膜素材として, セルロース混合エステル(MCE), 親水性ポリビニリデンフロライド(PVDF), 親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE), ポリエーテルスルホン(PES)の4種類を用いた。プール血清(血清原液)または4倍に希釈した血清は各フィルターでろ過し, ろ液を0.2mLずつ回収した。ろ液中に含まれるフィブロネクチン, EGFおよびTGF-βは酵素免疫測定法を用いて定量し, ろ過前の値と比較した。また, 実際の臨床適用を想定して1本あたり4mLの自己血清点眼液を調製した場合についても評価した。 【成果】MCEを用いてろ過した場合, 血清原液および4倍希釈した血清ともにフィブロネクチン, EGF, TGF-βの含量が低下したが, これらの吸着にはいずれも飽和が認められた。一方, MCE以外の膜材質では, 希釈の有無に関係なくフィブロネクチン, EGFおよびTGF-βの含量は低下しなかった。臨床適用する1本あたりの含量を評価した場合, MCEでろ過すると1本目に含まれるフィブロネクチン, EGF, TGF-βがいずれも低下していた。これらの結果から, 自己血清点眼液を調製する際は吸着を考慮して, 適切なフィルターを選択する必要があると考えられた。
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