研究実績の概要 |
【研究目的】 本研究では、臨床上問題となっているクロザピン(CLZ)誘発性の糖代謝異常に着目し、基礎研究と臨床研究から副作用発現メカニズムの解明を試みた。 【研究方法】 ①基礎的検討 : インスリン抵抗性に着目し、骨格筋細胞に対するCLZならびに活性代謝物(デスメチルクロザピン(DMC)、クロザピンーN-オキシド(NOX)の影響を評価するため、ヒト横紋筋肉腫由来細胞(RD細胞)を用いて実験を行った。 ・RD細胞をCLZ、DMC、NOXで薬物処理(各種1μg/ml、10μg/ml)した後、MTT assay法を用いて、細胞生存率(骨格筋細胞に対する直接障害性)を測定した。 ・糖代謝異常への寄与が予想されるトランスポーターであるGLUT4(グルコースの取り込みに関与)やMCT(モノカルボン酸輸送担体)1, 4(細胞内の乳酸量の恒常性に関与)の発現量をWestern blot法を用いて測定した。 ・上記のトランスポーターの機能変化を確認するため、薬物処理後、細胞内外の乳酸挙動を測定。 ②臨床的検討 : クロザリル服用継続期間が1年以上である症例17例を対象にクロザリル投与前と1年後の食前血糖値、HbAl1cならびに患者の背景因子を後ろ向きに検討した。 【研究結果】 ①MTT assayの結果、DMCの10μg/ml処理群は細胞生存率の低下が認められた。CLZ、DMC、NOXは各種処理濃度においても、GLUT-4、MCT-1、MCT-4の発現量に有意な変化は認められなかった。一方で細胞内乳酸濃度に関しては、DMCの10μg/ml処理群のみ低下が認められた。②クロザリル服用前と1年後の血糖値とHbAl1cの変化量を比較検討したところ、投与前後で顕著な変化は認められなかったが、喫煙ならびにクロザリル投与量≧400mgを満たす群は血糖値とHbAl1cの上昇が大きかった。また糖尿病移行高リスク群の割合が高かった。 【研究成果】 CLZの活性代謝物であるDMCはMCTの発現変動を介さずに、骨格筋細胞内の乳酸変動に障害を与えることが明らかとなり、二次的に糖代謝障害を引き起こしている可能性が示唆される。また、喫煙、高用量投与群では、HbAl1c等の上昇が認められたことから、喫煙によるCYP1A2誘導作用によるDMCの血中濃度上昇が糖代謝障害に寄与している可能性が考えられる。従って、CLZの活性代謝物の一つであるDMCの濃度上昇が糖代謝異常に関与している可能性が示唆された。
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