研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎(UC)は活動期と緩解期を繰り返す難治性の病気であり、特定疾患に指定されている。また、現在の治療薬では根治は難しく、これまでにない作用機序を持った新規治療薬の開発が望まれている。近年、マクロファージに存在するα7型ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)の刺激を介した抗炎症作用機序(Nature, 2003)が発見され、中枢神経系-迷走神経を介した抗炎症機序が注目されている。一方で、疫学的な研究からUC患者ではうつ病を合併するケースが報告されているが、末梢の炎症と中枢の疾患との因果関係、相互の影響については不明である。そこで本研究では、中枢神経系-迷走神経を介するコリン作動性抗炎症経路に着目し、UCと中枢神経系の関連の検討および新規UC治療薬の探索・検討を行っている。 昨年度の本助成により我々は7日間プロトコールである急性期DSS腸炎モデル(代表的なUCの実験動物モデル)を用いて検討を行い、DSS腸炎を発症することにより、うつ症状を呈することを見出し、UCを発症すること自体がうつ病のリスク因子であることが示唆された。そこで本年度の本助成により、ヒトの病態により近い慢性DSS腸炎モデルを作成し、検討を行った。まず最初に、慢性DSS腸炎を惹起し、コントロール群に比べてうつ症状を呈するモデルを作成した(Tail suspension testで確認)。このような条件下において、脳内の細胞死(アポトーシス)に着目し、TUNEL染色を行った。その結果、コントロール群に比べ、慢性DSS腸炎を惹起した群では、海馬およびその周辺において、TUNEL陽性細胞(アポトーシスを起こしている細胞)が増加していることを見出した。このことから、慢性DSS腸炎モデルによるうつ症状において、脳内の細胞死が関与している可能性が示唆された。 今後は、どのような細胞が細胞死を起こしているのか、また細胞死が起こるメカニズム(炎症性サイトカイン、モノアミンの関与)などについて、Real-time RT-PCR法などを用いて解析を行い、UCと中枢神経系の関連について引き続き検討を行う予定である。
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