○研究目的 危険ドラッグ等の分析において、IR分析は、迅速かつ簡便であり、未知化合物の構造解析には、強力な手法である上、構造異性体の識別にも有効である。しかし、IR分析は、混合物に弱いという欠点がある。そこで本研究では、顕微FT-IRマッピング分析を利用し、薬物混合試料をKBr板に分散させ、各々の点におけるIRスペクトルを連続的に測定し、得られたデータを統計的に解析することにより、データの可視化や混合試料中においても、単一化合物由来のIRスペクトルが得られるか否かについて検討した。 ○研究方法 各種異性体を購入または合成し、IR分析における異性体識別の有効性を確認し、実際のドラッグ類の形状(粉末、錠剤、ハーブ)に応じて、顕微FT-IRマッピング法が適用可能か否かを検討した。また、マッピング分析で得られた数千種類のIRスペクトルについて主成分分析を用いてデータの可視化を行い、薬物由来のIRスペクトルの抽出方法について検討した。さらに、抽出した複数のIRスペクトルのライブラリー検索を自動化し、マッピング分析によって得られたデータについて効率的な解析方法について検討した。 ○研究成果 マッピング分析で得られた数千種類のIRスペクトを、吸光度変換、ベースライン補正、Y軸正規化を行い、バックグラウンド由来のIRスペクトルを除外して、主成分分析を行うことにより、混合物中の薬物の数に応じた分散状態が確認でき、データの可視化が可能であった。また、主成分分析により得られた各分散位置におけるIRスペクトルを抽出し、作製したライブラリー自動検索プログラム実行することにより、薬物混合試料においても、単一の化合物が高い類似度でヒットし、標準品のIRスペクトルとも一致した。実際の粉末や錠剤では、5%以上含有する薬物は、単一化合物のIRスペクトルを得ることができた。ハーブにおいては、薬物を液体状態で抽出することから、IRスペクトルはハーブ由来の成分と混合スペクトルになり、標準品のIRと完全には一致しなかった。しかしながら、顕微IRマッピング分析は、IRが不得意とする混合試料においても単一のIRスペクトルが得ることが可能であり、危険ドラッグの異性体識別の有用性を確認することができた。
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