研究目的 : 甘草を含有する漢方薬では、グリチルリチンの副作用である偽アルドステロン症が問題となる。低カリウム(K)血症と高血圧を主症状とする本副作用は、甘草含有量が2.5g/日以上の漢方薬で発症頻度が高まる。認知症患者の周辺症状改善を目的として使用される抑肝散(YK)は、甘草含有量が少ないため(1.5g/日)、偽アルドステロン症の発症頻度は低いと考えられているが、過去の報告での低K血症の発症頻度は決して低くはない。甘草含有量が少ないにも関わらずYK投与による低K血症発症頻度が高い理由を明らかにするために、YK投与患者の低K血症の発症頻度や発症要因を調査した。また、抑肝散と同量の甘草を含有する抑肝散加陳皮半夏(YKCH)についても同様に調査した。 方法 : YK投与患者231名及びYKCH投与患者59名を対象に、同薬の投与期間、血清K値、併用薬の併用を調査した。 研究成果 : 偽アルドステロン症のリスクは男性よりも女性で高いとされているが、YKCHでは投与患者に女性が多いにもかかわらず、低K血症の発現頻度はYK(25.1%)よりも低い11.9%であった。YK投与患者では、血清K値が3.0mEq/L以下に低下した5名において投与中止に至ったが、YKCHの2名では中止に至らなかった。YKCH投与により低K血症を発現した患者の57.1%で低K血症誘発薬剤(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、グルココルチコイド、グリチルリチン製剤、甘草含有漢方薬)を併用しており、YK(37.9%)と比較して低K血症誘発薬剤併用の割合が高かった。以上より、YKCH投与による低K血症はYKよりも発現頻度が低く、その症状も重篤ではなく、同薬自身よりも併用薬が誘因となると考えられた。
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