【目的】 造血幹細胞移植において、移植後の移植片対宿主病(GVHD)を制御するため、免疫抑制薬の至適血中濃度を保つことは重要である。しかし、免疫抑制薬を静注から経口に切替える際、意図せず血中濃度が変動する患者が存在する。そこで、タクロリムスの投与経路を変更する際に併用薬が薬物血中濃度に及ぼす影響を検討した。 【方法】 2010年12月から2013年12月に造血幹細胞移植においてタクロリムスを投与した患者73名を対象に、静注から経口に切替える前および切替え後3~5日目について、タクロリムスの血中トラフ濃度/投与量(C/D)比をそれぞれ算出し、C/D比の比率変動に影響を及ぼす因子について多変量解析を行った。調査項目はタクロリムスの投与量、血中トラフ濃度のほか、年齢、体重などの患者背景、臨床検査値および併用薬とし、電子カルテシステムよりレトロスペクティブに収集した。 【成果】 投与経路を静注から経口に切替え後の、C/D比の比率の中央値は0.21(0.04~0.58)倍であり、タクロリムスを経口投与に切替える際の投与量は、静注時の4~5倍量が目安になると考えられた。経口切替え後に十分な血中濃度が得られずC/D比の比率が低い患者では、GVHDの発現割合が有意に高く、タクロリムス投与量を再設定し、増量を検討すべきであると示唆された。一方、多変量重回帰分析の結果、イトラコナゾールもしくはボリコナゾールを併用している患者でC/D比の比率が有意に高く、これらを併用している患者では経口切替え後に血中濃度が上昇しやすいため、より慎重な血中濃度モニタリングを行い、タクロリムスの減量を考慮すべきであると示唆された。
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