【目的】 調剤過誤のうちで患者影響(被害)が大きいものは「薬名違い」とされているが、その発生要因には不明な点も多い。本研究では、「薬名違い」の類似性に応じた調剤・鑑査ミスの発生傾向の違いと、その後の患者影響度との関係を解析した。 【方法】 平成19~25年度の定時処方(内用・外用薬)における「薬名違い」の調剤過誤を、その類似性に基づき、薬効類似、薬名類似、外観類似の3つに分類し、該当する調剤ミス600件、鑑査ミス66件を調査対象とした。また、類似性3分類に伴う「ミス単独群」、「ミス2重複群」、「ミス3重複群」、および、3つの類似性間(薬効類似、薬名類似、外観類似)での調剤・鑑査ミスの発生傾向の違いを解析した。さらに、「薬効類似(+)群」および「薬効類似(-)群」と患者影響度(インシデントレベル0~5)との関係を解析した。 【成果】 「ミス単独群」の調剤ミス(件数)は「薬効類似(242件)」>「薬名類似(74件)」>「外観類似(22件)」であるのに対し、鑑査ミス(割合)は「薬効類似(10.7%)」<「薬名類似(14.9%)」<「外観類似(27.3%)」と逆相関の関係となり、「ミス2重複群」でも類似した傾向となった。また、「薬効類似(+)群」における調剤過誤のレベル占有率(調剤ミス⇒レベル0以上⇒レベル1以上⇒レベル2以上)は、レベル上昇に応じてその割合が低くなる(81.3%→68.2%→57.1%→25.0%)のに対し、「薬効類似(-)群」ではその割合が高くなった(18.7%→31.8%→42.9%→75.0%)。 つまり、調剤者は薬効類似に伴う「薬名変換」を起こしやすい一方で、鑑査者は外観・薬名類似に伴う「視覚誤認」に陥りやすいことが示された。また、「薬効類似(-)群(≒外観類似や薬名類似)」は「薬効類似(+)群」と比較してインシデント件数は少ないものの、患者影響度(被害)は拡大することから、外観・薬名類似に伴う鑑査ミスそのものが被害の深刻化に関連していることが判明した。
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