研究概要 |
本研究の目的は、18世紀末期から19世紀前半におけるイギリスの工業都市の社会経済構造を、個人・家族に関する詳細かつ信頼に足る情報を得ることができる最初の国勢調査の集計調査表(Enumerator's Books,1851)の大型計算機による統計処理を通じて、分析することであった。この目的のため、われわれは北部イングランドの工業地域であるYorkshire,West Pidingの中心都市の一つ、リーズ(Leeds)をとりあげ、都市住民を3つの社会階層に分類し、それぞれについて、家族規模・年齢構成・性比・世帯構造・有配偶率・職業・年齢別性別労働力化率・出身地等の情報を大型計算機に入力し、統計パッケージ(SAS)を用いて、数十種類の統計数値を算出した。この統計処理に基づいて、都市居住者、特に労働者住宅(Back-to-Backs,Cellar Dwellings)に居住する家族の人口学的・社会学的諸特徴を、他の母集団(都市中産階級・近郊農村居住者)と比較しつつ、分析することができた。 以下、そのうちの注目すべきものについて、列挙してみよう。先ず人口の年齢構成・性比に関して、都市中産階級・農村居住者と比較して、かなり大きな相違(農村に比べて、若年層の比率が高いこと等)がみられた。これは移入人口(寄宿者-lodgers、召使い-servants)の人口的特徴の反映と考えられる。また、有配偶率に関しては、都市中流階級にみられる独身率の高さが注目される。労働力に関しては、家族中に占める労働力化率、性別の労働力化率の農村および都市中産階級との差が顕著である。また、都市労働者住宅居住者の乳幼児死亡率の高さが目立っている。 以上のような分析結果は、1986年1月に東京で開催された国際歴史人口学会において、提出した英文論文をもとに、研究代表者によって報告された。
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