研究概要 |
センチニクバエ幼虫の体表に注射針で傷をつけると、傷口から侵入するバクテリアの感染を防止すべく、体液中に強い抗菌活性を持った蛋白が誘導される。この蛋白を研究し新しい抗菌薬創製の可能性を検討することが、本研究の目的であった。その結果、抗菌蛋白の一つSarcotoxin【I】が精製され、そのcDNAが単離された。蛋白的な性質を検討した結果、バクテリアに対する選択毒性が高く、医薬品,食品添加物への応用は十分可能であるという結論と得た。又遺伝子の単離は、動植物の細菌抵抗性の種の作製に道をひらくものである。1.Sarcotoxin【I】の精製と同定:体液中に出現する抗菌蛋白の中、低分子成分をSarcotoxin【I】と命名した。この蛋白を精製した結果、Sarcotoxin【I】は、【I】A,【I】B,【I】Cというきわめて構造の類似したサブクラスがあること、各々は39個のアミノ酸よりなり、配列の上で2〜3個のアミノ酸の相違しかないこと、などが明らかとなった。2.Sarcotoxin【I】の抗菌性:【I】A,【I】B,【I】Cとも強い抗菌性を持っており、グラム陰性菌に対して著効を示した。又効果は致死的で、この物質を作用させると数分以内に菌の集落形成能は失なわれることがわかった。その作用点を検討した結果、Sarcotoxin【I】の作用部位は細菌の細胞膜であり、この物質を作用させると速やかに膜電位が消失することがわかった。その結果物質輸送の停止、ATP合成の停止がおこり、バクテリアは死に致るものと思われる。3.Sarcotoxin【I】の構造的特徴及びcDNAクローン:Sarcotoxin【I】は、N末側半分は親水性で陽電荷に富み、C末側半分は疎水性である。従って細胞膜と相互作用しやすい構造を有している。最近、Sarcotoxin【I】AのcDNAクローンの単離に成功した。Sarcotoxin【I】はすぐれた選択毒性を示し、動物細胞に対しては無毒なため、医薬品,食品添加物,ムシバ予防等、巾広い利用法が考えられる。cDNAクローンの単離は、この物質の大量生産に道を開いたものである。
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