研究概要 |
戦後日本の社会学者にとって、「民族」という対象は、「戦争」という対象と同様、いくばくかのタブー的なひびきを含んでいた。戦後40年を経た現在、戦争体験は風化をも評される歴史化の中で、感情や思想の夾雑物がある程度整理され、社会学の客観的分析の対象として、無理のない姿を示しはじめた。それと同時に、この歴史的事件を自らの経験の中にとどめた人々の数も次第に少なくなって来た。このような時点において、私達は、民族・人口・植民・在日外国人、戦争体験など一連の問題を歴史社会学的な視点から総合的に捉えなおそうと考えたのである。 第二次大戦に関する研究は、政治学・歴史学,経済学,思想史などの分野では既に顕著な進展をみており、社会学研究者が新たに何を寄与することが可能かについては疑問の余地がないわけではない。しかしながら、社会学がこの分野において新しい視界を切り拓きうることを期待しつつ、私達は、第一次の研究グループを京都大学関係者で組織した。グループの活動は、第1に、現時点を逃せばもはや失なわれてしまう恐れのある文献および資料を収集し、第2に、それらの文献・資料および面接調査(満蒙入植者,海外戦場体験者,在日外国人-朝鮮人,イタリア人等-,海外神社官職者,軍人キリスト者などとの面接)等を通して、個別のテーマに光をあてることにあった。その成果は、以下の四つにまとめられる。第1は、戦時下日本人の民族意識を問うた「国と民族」であり、第2は、陸軍や官僚・固会のあり方を問題とした「社会体制」であり、第3そして第4が、異文化・異民族体験に関する「異文化接触」と「『拓殖』の諸相」である。 私達は、以上の成果を踏まえ、今後とも研究をさらに発展させていく方針である。
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