研究概要 |
本研究における特記すべき成果は、母性遺伝現象の最初のひきがねとなる雄由来葉緑体の核(DNA)の消化を引き起す物質であるヌクレアーゼC1,2の発見、分離、同定したこと、この酵素を用いてin vitroで選択的消化の人為的誘導に成功したこと及び一連の研究成果を整理し、母性遺伝の分子機構とも言うべき「能動消化説」を提唱したことである。次にそれぞれについて概要を述べる。 1. ヌクレアーゼCの発見:クラミトモナスの雌雄配偶子の接合後30分で、雄由来葉緑体DNAが消失する。このことが母性遺伝の機構と考えられる。ところが、【Ca^(++)】イオンを取りのぞくEGTAを添加すると、消失しないことが分った。このことはDNAの消化に直接働く酵素ヌクレアーゼが【Ca^(++)】要求性であることを示唆している。そこで、この酵素を分離することを試みた。その結果、分子量26K,22K,21K,18K,16KのCa要求性のヌクレアゼ(ヌクレアーゼCと命名)が発見された。次に各ヌクレアーゼCを分画し、その性質を詳細に調べたところ、22,21Kは26Kの、16Kは18Kの分解産物であることが明らかとなった。 2. 選択的消化の人為的誘導:上記の酵素を詳細に調べた結果ヌクレアーゼC26Kが重要な働きをしていると予想されたので、モデル細胞を調製し、この酵素液内で反応させたところ、雄配偶子内の葉緑体DNAのみが選択的に分解された。 3. 能動消化説:この他に阻害剤を用いた生理学的研究、UVによる生物物理学的研究から、同型配偶子生物においては次の順に従って母性遺伝が起ると推定した。雌雄配偶子の接合後、雌由来細胞核から消化せよという情報がmRNAとしてでる。これにもとずいて細胞質内で、蛋白質が合成され、これが雄由来の葉緑体を弱めたり、ヌクレアーゼCを活性化する。ヌクレアーゼCと【Ca^(++)】は葉緑体に入り、雄由来葉緑体DNAを分解する。これが能動消化説」である。
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