研究概要 |
本研究は、近年特に基礎物理実験等への応用に関連して重要になりつつある超冷中性子について、その新しい発生方式の可能性を試みる研究として,磁場を用いて極冷中性子を減速させ,これを超冷中性子のエネルギ-領域に貯め込む構想を検討することを主な内容として実施された。この減速機構の基本原理として、中性子を強力な磁場内で断熱スピン反転させる方式について、その磁場装置の単一段を試作した。その結果、最大磁場強度が約10kG近くで,かつ断熱スピン反転の作用のために重要な,ゆるやかな磁場強度勾配についても約10G/cmの勾配の実現が可能であることが示された。ついで,この試作装置の各仕様・性能の基づき,これを多数段連ねた場合の超冷中性子トラップ動作についての数値解析を行った。これらの研究の結果から、多段作動の究極の性能には、単一段の磁場構造・性能を出来るだけ理想条件に近づけておくことが重要であることが明らかとなった。この間、この構想の装置の入射中性子として実際に用い得る極冷中性子源の特性及び性能についても、京大研究炉(KUR)における極冷中性子設備の整理完成とその特性測定が行われ、本研究で構想している方式の装置に必要な入射極冷中性子のエネルギ-領域における強度が明らかとなった。これらの研究の結果、本構想の強力磁場内の中性子断熱スピン反転による減速機構という方式を多段に作動させることによる超冷中性子トラップを可能とするための各種条件が明らかとなった。今後は,この単一段試作装置をさらに改造、改善し、これについて超冷中性子を用いた実証実験を行うとともに、多段化の際に起こり得る問題点の検討を進める予定である。
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