研究概要 |
構造異性体を持つ【C_4】,【C_5】パラフィン系炭化水素高密度気体中で、媒質構成分子の形状の効果に着目して電子移動度及び準自由状態(伝導状態)エネルギーを測定した。本研究の特色は媒質を超臨界状態にとり、一定温度において密度の関数として測定を行ない、温度と密度の効果を分離したことである。電子移動度はX線照射により電子を発生させ、飛行時間法により決定した。準自由状態エネルギー【V_0】は、光電効果法により測定した亜鉛蒸着膜仕事関数値の媒質中と眞空中の差として決定した。先ず第一の成果は、炭化水素の精製法を確立して、液体中で1ミリ秒を越す電子寿命に到達し、電子移動度μの正確な決定を可能にしたことである。超臨界状態n-,イソブタン,x-,イソ-,ネオペンタン中で等温的に測定したμ値の特徴は、何れの場合も密度Nで規格化した移動度μNが、臨界密度付近で極小を通ったのち、密度と共に増加して極大値をとることである。一方、【V_0】値はμN値が極大となる密度付近で極小となることを見出した。中間密度領域におけるμNの極小は、n-ブタン,n-ペンタンの場合は密度揺らぎの極大による。より対称性の高い他の炭化水素については、変形ポテンシャル理論を用いて散乱断面積の密度変化を計算し、伝導帯の成立を考慮して説明した。高密度領域で観測されるμN極大は、イソブタン,イソペンタン,ネオペンタン中では、伝導帯の底のポテンシャルの揺らぎ、即ち変形ポテンシャルの極小(d【V_0】/dN=0)によって生ずるとした。n-ブタン,n-ペンタンの場合は、直鎖状分子の配向の揺らぎに起因するポテンシャルの揺らぎによる電子の過渡的局在化の結果と解釈した。このように、電子輸送機構と媒質分子形状の間に明らかに相関々係のあることを確認した。研究の次の段階として、さらに高い密度領域(等温高圧下)で、局在状態の関与する場合の電子輸送機構についての情報を、μ,【V_0】の測定を通じて求めることを計画している。
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