研究概要 |
(1)天然の試料の生成環境の酸化還元状態を知る手段として、CeおよびEuを含む希土類元素の精密な非破壊中性子分析法の確立を行った。低エネルギー用LEPS検出器を用いることにより、Ce,Nd,Eu,Tb,TmおよびLuの分析精度が著るしく向上し、条件によっては質量分析を用いた同位体希釈法に匹敵する精度が得られ、特に少量しか得られない試料について有効なことがはっきりした。 (2)南極産エコンドライト隕石については、従来からCeの異常が報告されているが、これは南極の氷中に特有な風化の過程で生じたものであることがが確立された。すなわち、このCeの異常は、原始惑星時代の状態を反映するものではなく、現代の地表の酸化的状態の下で生じたものである。また、南極の3個のエコンドライトが月の高地から来たものであることがあきらかになった。 (3)アフリカの古い堆積岩について、30億年をこえると希土類元素の相対存在度が、急速に隕石中の相対存在度に近づくことがはっきりした。この時代のチャートではCeの異常が見出されず、逆に、Euの異常が変化してあらわれることから、チャートの生成環境が30億年以降に比べて著るしく還元的であったと結論できた。 (4)南極の氷中の微小の球状粒子の中にCa,Tiに富むものとFe,Cr,Niに富むものの新しいタイプのものが見出された。これら両者は、Nd,Smに異常を示す共通の希土類元素パタンを持つことから、共通の起源,おそらく隕石の衝突によるものと推定した。 (5)アエンデ隕石中のCa,Alに富むインクルージョンの鉱物中からYbの異常が見出された。Ybの異常が、非常に還元的な環境下での鉱物間の分配で生じたものであれば、Ybの異常が、新たに古い時代の酸化還元状態の指標となる可能性が示唆されたことになる。
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