研究概要 |
この研究の目的は、日本に自生するユリ科植物のカタクリ,コシノコバイモ(多回繁殖型多年草),ウバユリ(1回繁殖型多年草),チゴユリ,ホウチャクソウ(1回繁殖型擬似一年草)の5種について、その自然集団の構造をサイズ構成並びに酵素タンパク多型の両面から明らかにすると共に、生活史過程を通じて起っている集団内個体数の消長と遺伝子頻度の変化がどのように関連しているかを解明し、個体群構造の分化の機構に関する新たな情報の集積と研究方法を確立することにある。 〔結果〕 1.カタクリ,コシノコバイモ,ウバユリ,チゴユリ,ホウチャクソウの5種について、サイズ構成からみた個体群構造を明らかにすると共に、各種の個体群動態をLefkovitch matrixを用いて解析した。 2.個体群構造が解析された上記5種の内、カタクリ,コシノコバイモ,ウバユリ,チゴユリの4種について、調査区内のすべてのサイズクラスに属する個体の葉のサンプルが採取され、-20℃以下で低温貯藏された後、等電点電気泳動法を用いてパーオキシダーゼ・アイソザイムの分析が行われた。 3.典型的な外交配型の多回繁殖性多年草のカタクリ,コシノコバイモからは不一致数(D.I.=a+b-2C;A個体に固有なバンド-a;B個体に固有なバンド-b;両者に共通なバンド-C)の分布が個体群全体としても、また各階級ごとにみても正規分布を示し、ランダムな遺伝的組合せとランダムな個体の死亡が起っていることを示唆するデータが得られた。ウバユリも上記2種に類似した個体群構造を示したが、栄養繁殖の影響が若干認められた。ほぼ90%以上栄養繁殖に個体の補充が依存するチゴユリでは、D.I.値0の同一遺伝子型を示す個体の割合が非常に高く、地域性のある極めてユニークな遺伝的構造をもつことが判明した。
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