研究概要 |
サイロトロピン放出ホルモン(TRH)とその代謝産物であるサイクロヒスチジンプロリン(CHP)が新生仔ラット体温調節機能の成熟に及ぼす影響を検討した。生后1週令の幼若ラットに【10^(-11)】〜【10^(-9)】モルのTRHを6日間髄注すると体温恒常性を獲得する3週令に有意の高体温が認められ、寒冷暴露からの体温回復が促進された。【10^(-10)】モルcHPは低体温を来し寒冷からの体温回復も遅延した。TRHの体温上昇作用はカテコールアミン(CA)合成阻害剤で消去されるので、中枢神経CAを介して発現すると考えられた。事実CA代謝回転率はTRHにより2〜4倍に促進され、TRH処置2週后の脳内ノルエピネフリン(NE)ドーパミン(DA)量は有意に低下した。この時期に一致してTRH処置ラットは低体温を示し、褐色脂肪ミトコンドリアのグアノシン2燐酸(GDP)結合能,α-グリセロ燐酸脱水素酵素,肝ミトコンドリアのチトクロムC還元酵素活性も減少した。以上の成績はTRHが中枢神経CA放出を介して熱産生を促進し、cHPはこれを抑制することを示している。一方TRHは甲状腺ホルモン分泌をも促進するので、次にCAと甲状腺ホルモンの熱産生に関する相互関係を検討した。ラットに甲状腺機能低下,亢進症を作成し、寒冷馴化過程における3CA代謝の変動をみると、機能低下ラットでは馴化につれて脳内DA,副腎CA,褐色脂肪NE含量は著明に増加した。さらに脳チロジン水酸化酵素活性,副腎DA-β-水酸化酵素活性,肝細胞膜βアドレナリン受容体特異結合能も増大した。逆に機能亢進ラットでは褐色脂肪NE量,ミトコンドリアGDP結合能,肝β受容体結合能は低下し、CAを介する熱産生の抑制が認められた。この結果から熱産生に関して甲状腺ホルモンとCAは相互補償的に作用するものと考えられる。中枢神経TRH-cHP系は両者の制禦因子として調節にあずかっている可能性が高いが、この点の検討は今後の課題として残された。
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