研究概要 |
研究期間の昭和59年から昭和61年にわたって調査・収集した常磐津節正本・稽古本は、上田市立図書館花月文庫約300点,上野学園日本音楽資料室約400点,竹内道敬氏所蔵約400点,名古屋市蓬左文庫約100点,東京藝術大学附属図書館約100点,東京大学教養学部黒木文庫約185点,東京大学附属図書館約30点,東京都立中央図書館加賀文庫約100点,東北大学附属図書館狩野文庫約50点,及び架蔵約1500点である。これらの正本・稽古本のうち名古屋の玉沢屋新七(初代岸沢式治)版が予想外に多量に存在することが判明した。江戸の版元はほとんどが伊賀屋勘右衛門とそれを引き継いだ坂川平四郎であるが、調査・収集したものの約半数が玉沢屋版で占められている。したがって玉沢屋の出版活動はかなり大規模なものであり、現在までの版元についての研究を再検討せねばならなくなった。またこれら版元の正本・稽古本の出版状況についても不明な点が多く(例えば一曲についての出版部数・一冊の値段・版権の問題)、今後解明すべき問題が呈示された。さらに、一つの作品の上演年月日について、周辺資料(番付等)と対照しても不明なものが相当数にのぼった。これらの上演年月日の確定が急がれる。 今後は、常磐津節正本・稽古本その他番付等の周辺資料の調査・収集を続行し、更に多くの資料を集めた上で、常磐津節の全容をまとめるとともに、他の豊後節系浄瑠璃である富本節・清元節・新内節また長唄等についても、同様の研究方法で調査・収集,考察を行い、邦楽全般について、芸能史的意義をまとめる予定である。
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