研究概要 |
昆虫の行動と視覚機能との関係について、まず多様な時間的行動パターンを示す鱗翅類について電気生理学的に刺激強度一反応曲線(V-log【I】曲線)を記録し、またそれらの複眼の微細構造特にラブドームの網膜内での占有率を調べ、両者の相関関係を46種類について行った。その結果V-log【I】曲線の直線部分の勾配は夜行性ではゆるやかであるのに対して、昼行性の蝶などでは急になっており、またラブドームの占有率と関係づけると勾配が急なものはその占有率が小さく、ゆるやかなものは大きいという興味深い相関関係がみつかった。このことは彼等の活動時間での光環境の下での差闘と深い関係があることを示したことになる。セセリ蝶がいずれの場合も夜行性と昼行性の中間的値を示したのは彼等の行動や系統進化と密接な関係があるものと思われる。 複眼には色覚が存在するのは一般的であり、多くは三〜四原色によって構成されていると報告されている。しかし今回、アゲハについて電気生理学的方法(細胞内記録法)による分析を行った所、五種類の色受容細胞が存在することが分った。即ち、紫外部,紫,青,緑,赤の各種である。またそれらの各細胞は複眼の各部域により異なりそれは行動と深い関係にあることが分った。またこのような色受容細胞の感度は概日リズムにより各々違いがあることがフナムシを使った実験で明らかになった。即ちフナムシには紫外線と緑の二つの色受容細胞があるが昼間は紫外線に対する感度が高いが、夜間になると緑の細胞の感度が高くなるという現象を見つけた。 動物の視物質の発色団はレチナールが大部分で、従来は淡水の魚類両生類にだけ3デヒドロレチナールが見つけられていたが、今回我々は無脊椎動物では始めてこの発色団を見つけ、それが温度によりレチナールと入れかわることを見い出した。
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