研究概要 |
近底層域における仔稚魚群の基礎的知見をうることを目的に、採集方法の検討および仔稚魚類の分類・生態学的研究をおこなった。 1.採集器具の試作:稚仔魚の生態的特性を考慮し、離底距離が調節でき、曵網性能の高い開閉装置付のネットを試作した。野外試験によって性能をテストし改良を加えたが、水深の違いによる操作性の差を解消するに至らなかった。離底距離を一定にして構造を簡略化する必要があるとの結論に達した。 2.仔稚魚の分類:広義の近底層種を対象に発育史の記載を中心に分類学的研究をおこなった。従来より近底層性が示唆されていたサケ亜目の小型種群(キュウリウオ科,アユ科,シラウオ科)稚仔魚の再検討をおこない、ワカサギ,チカ,シラウオ,イシカワシラウオ,アリアケシラウオ仔魚の形態的特徴を明らかにした。生態的にも多様化したハダカイワシ目稚仔魚の再検討をおこない、分類学的な位置とは関係なく近底層性要素が出現することを指摘するとともに、アオメエソ科仔稚分類の問題点を考察した。この他に、シキシマハナダイ,アブオコゼ,ホカケトラギス,キンメダイ,マトウダイ,マツカサウオ等の幼期についても明らかにした。 3.近底層性稚仔魚の分類・生態学的位置づけ:近底層をめぐる既往の見解はプランクトンとベントスの生息域の移行帯としてこれをとらえる色彩が強く、発育段階の一部としての仔稚魚を位置づける概念としては十分でないことが判明した。近底層は仔稚魚の系統的背景と、表・底性種に大別される成魚の生態学的帰属、さらには生活史戦略の一部としての発育様式を考慮して多角的にとらえられるものであって、基本的には摂餌条件と被捕食圧によって強く規定される生態的カテゴリーと考えられる。この概念にそった近底層の類型化をおこない仔稚魚の位置づけを試みた。
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