結晶の生成条件によって生じる構造上の乱れは、結晶の微細組織に対応し、X線回折実験において、散漫散乱として観察される。微細組織の研究は、従って、物質の生成過程で経てきた温度圧力条件を知る上で重要である。X線回折による実験は、微細組織の研究を非破壊で行なう事が可能であるのが特徴であるが、微細組織に由来する散漫散乱は、一般に強度が弱く通常の回折実験では定性的な観測すら困難である。そこで高輝度で高分解能なX線源が実験室レベルで実現すれば、その応用範囲は非常に広い。X線源としては市販の通常型X線発生装置に微小焦点X線管球を取り付け、更に入射X線の光軸と回折装置の光軸を容易に一致させる架台を準備した。高分解能な入射X線を実現させるため、X線管球からのX線を単色化させると同時に集光した。この目的に合致するモノクロメータとしてギニエ・ヨハンソン型モノクロメータを採用した。また回折装置として回折カメラを使用し、結晶とフィルムとの距離を100mmにセットした。この結果Cu Kα1線が、モノクロメータ結晶から210mmに厳密に集光する事を確認した。一方高輝度を実現するため、回折法としてラウエ法を採用した。ラウエ法の欠点は、高次の反射が重なりあう事であるが、入射X線が厳密に単色化されていると、この問題は解決される。強度は、逆格子点が反射球上に静止しているため、実測で通常の振動写真法の百倍程度であった。以上の機器構成で斜長石の離溶による微細組織を調べた。その結果、通常の回折法では観測されなかった散漫散乱が、かなりの強度で観測され、特に入射X線が高分解能であると、ラウエ法は逆格子点の逆空間における広がりを、非常に良く示す回折法である事もわかった。
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