研究概要 |
比較的高温度(液体窒素温度から室温範囲)で超伝導状態を保持しうる有機材料が開発されれば、超伝導磁石、超伝導送電さらにスーパーコンピュター等へ利用され、その効果は多大なものと予想される。これまでに、テトラチアフルバレン(TTF)の誘導体のいくつかのカチオンラジカル塩で、極低温下ではあるが常圧ないしは高圧条件下で超伝導状態が観測されている。今後、TTFのS原子をSeやTe原子に置換するか、TTF骨格に適当な置換基を導入することによりさらに優れた超伝導体が合成されていくものと思われる。しかし、有機超伝導体をより一般的なものにし、かつ導電特性の詳細な解明に当っては、TTF以外の骨格からなる電子供与体をもとにした超伝導体の合成が強く望まれる。従って、本研究では昨年度で新しい電子供与体としてエタンジイリデン-2,2′-ビス(1,3-ジチオール)(【1!〜】)とそのSe類縁体を合成し、今年度で【1!〜】が形式上2個あるいは3個環状に結合した1,3-ジチオール〔4〕-および〔6〕ラジアレンのいくつかの誘導体合成を行なった。これら新しく合成した電子供与体を用いて、広汎に使用されている電子受容体との電荷移動錯体の生成およびそれら錯体塩の導電性について検討した。〔6〕ラジアレンを除いて他のすべての電子供与体はTCNQ,TCNQ【F_4】,DDQと錯体を生成した。【1!〜】とTCNQの1:1錯体は圧縮ペレット状態で室温の電導度が〜0.79【Ω^(-1)】,【cm^(-1)】で,活性化エネルギーも0.09eVと非常小さい。実際,この塩の単結晶状態での導電特性は金属特有のものであり、合成金属であることが示された。また、〔4〕ラジアレンのTCNQあるいはTCNQ【F_4】錯体は1:2の組成比よりなっており、室温下での電気伝導度が0.05〜0.1【Ω^(-1)】,【cm^(-1)】と比較的高いことより、【1!〜】-TCNQ錯体と同様に単結晶状態では金属的性質を示すものと予想され、現在単結晶育成を試みているところである。
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