研究概要 |
微量試料のABO式血液型判定は長足の進歩を遂げた。ABO式血液型抗原は血球・体液・臓器に広く分布し、体液汚染血痕では血液のみの血液型を分別・判定することは困難である。この溢路を解決するため、本研究では血球・唾液のABO式血液型抗原の血清学的差異の存否を検討し、血球特異的(抗Hr,Ar,Br)または唾液特異的抗体(抗Hs,As,Bs)の調製を試みた。ウサギをヒトO型血球で免疫した抗血清をO型唾液で吸収すると、O型血球に対する凝集素価は変化がなく、抗Hrの産生が確認された。一方、ヒトO型唾液で免疫したウサギ抗血清をO型血球で吸収し、O型唾液を吸着したラテックスによる凝集反応で検査すると、抗Hrの産生が確認された。同様にして、A,B型血球、A,B型唾液をウサギに免疫して得た抗血清を適当に吸収すると、低力価の抗Ar、高力価の抗Bsが得られた。しかし、抗Asはウサギには産生されず、モルモット免疫によって比較的低力価の抗Asが得られた。抗Bsについては、ウサギ・モルモット・ニワトリの免疫では特異的抗体は調製できなかった。なお、当教室製の抗M、抗N粗血清(O.M型またはO.N型血球をウサギにまたはカニクイサルに免疫した27種の抗血清)を用い、血痕・唾液痕について解離法・型的二重結合法をおこなうと、僅か2種のウサギ抗血清とサル抗血清のみが唾液疫で陽性を呈したが、大部分は陰性であった。これはウサギが血球Hと唾液Hとを血清学的に識別していることを示している。ABO式血液型抗原決定基は比較的簡単な糖であり、決定基をとりまく化学構造は血球ではglycolipid、唾液ではglycoproteinであることが知られている。本報で明らかになった血球と唾液抗原との血清学的な差は、抗原決定基周辺の高次構造の違いによるものと推測される。
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