研究概要 |
癌細胞の制癌剤耐性機構を生化学的、遺伝学的に明らかにし、耐性細胞に有効な物質を見出すことを目的として研究を続け、本年度あらたに耐性癌細胞に有効な物質をいくつか見出しその生物活性を検討した。すなわち、放線菌培養瀘液よりラクトキノマイシンと命名した新規制癌抗生物質を得たが、このものは各種培養癌細胞の増殖を低濃度で阻止し、マウス白血病L5178Y細胞のアドリアマイシン(ADM)耐性細胞やその他の制癌剤耐性細胞に対してその親株より効果が強かった。実験動物腫瘍に対しても有効であった。また、ある種の植物の球根から分離精製した抗HeLa細胞活性物質はnaphtazarinのtrimethoxy体であったが、そのmonochlor-dimethoxy体を化学合成したところP388ADM耐性細胞に対し、その親株より強い増殖阻止作用を示し、Sarcoma180マウス移植腫瘍に対し5ng/kg/day,7日間投与でILS70%の抗腫瘍効果があった。一方、併用による耐性克服物質としては、新規ヌクレオシド抗生物質cadeguomycinがヒト白血病K562細胞のaraCに対する感受性を数十倍高めるとともに、araCに対して30倍耐性になったヒト白血病MOLT-3細胞の耐性を完全に克服した。Quinacrineがin vitroにおいて多剤耐性細胞の耐性を克服することを認めたが、P388移植マウスに対してVCRと併用して有意の治療効果を示した。合成イソプレノイドSDB-エチレンジアミンは、P388のVCR耐性、ADM耐性をin vitroで完全に克服すると同時に、P388VCR耐性細胞を移植したマウスのVCR耐性も完全に克服した。カルシウム拮抗薬が抗癌剤の効果を増強させることを見出しているが、そのうちのジルチアゼムを用いた臨床治験において、再発した小児のALLに対してVCRとの併用で治療効果を示した。多剤耐性癌細胞は細胞膜が変異して抗癌剤の透過性が変化しているが、ヒト骨髄性白血病K562細胞のADM耐性株を分離したところ、多剤耐性であり細胞膜上に180K,85K,65K等のユニークな糖蛋白を発現していた。
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