研究概要 |
細胞が休止状態から増殖状態に移行する時、リン脂質合成は活溌化し、逆に増殖状態から休止状態に入る時、リン脂質合成は不活化する。したがって細胞増殖の分子機構を解明するためにはリン脂質合成の調節機構を明らかにする必要がある。本研究はHeLa細胞をEGFで刺戟した際のリン脂質合成系の変動を酵素学的、分子生物学的に解明しようとするもので、本年度は以下に述べる成果を得た。 1. EGFによるHeLa細胞リン脂質生合成の活性化。 各種標識アイソトープを用いてリン脂質合成速度を測定したところ、EGF刺戟によりHeLa細胞のリン脂質合成は有意に亢進し、しかも亢進は特定のリン脂質に限局されず、すべての種類のリン脂質について同程度におこることが示された。したがってEGFはリン脂質相互のバランスを変えることなく合成を活性化することが示された。つぎに活性化にともなう酵素の変動をホスファチジルコリン合成系について解析したところ、初発段階であるグリセロリン酸アシルトランスフェラーゼとコリンキナーゼの活性レベルが有意に上昇していた。上昇はいずれもシクロヘキシミド,アクチノマイシンDにより阻害され酵素タンパクの合成によっていることが示され、酵素遺伝子がEGFにより活性化されることが示唆された。 2. リン脂質合成酵素遺伝子のクローニングと構造解析。 EGFによる酵素遺伝子の活性化機構を明らかにするためにリン脂質合成酵素遺伝子のクローニングを行なった。今年度はすでに変異株が得られ遺伝子クローニングが可能な酵母について研究した。ホスファチジルイノシトール合成酵素遺伝子、ホスファチジルセリン合成酵素遺伝子はそれぞれアミノ酸残見220,276個を含む疎水性酵素タンパク質をコードしており、両酵素が共通の反応機構を有することを反映して、アミノ酸配列に共通部分を有することが示された。
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