研究概要 |
がんの放射線治療において、細胞に発現する潜在的致死損傷の修復(PLDR)が、治療効果を減弱することが明らかとなった。本研究では有効なPLDR阻害剤を開発し、その併用によって放射線によるがんの治療効率を高めることを目指した。 ハムスター、ヒトがん由来培養細胞を高密度状態に置き、X線を照射し、直後および一定時間37度Cで保持後希釈培養し、細胞の生存率の上昇からPLDRを測定した。薬剤は細胞にX線照射直後から投与され、もたらされる生存率の低下からPLDR阻害率を算出した。 核酸関連物質、arabinofuranosyladenine(ara-A)、ara-A5′-monophosphate(ara-AMP),3′-deoxyguanosine(3′-dG)と、それらの誘導体について、ハムスター細胞のPLDR阻害率を調べたところ、ara-A,ara-AMPは高い阻害率を示したが毒性も高かった。3′-dGは阻害率、毒性ともに低かった。ヒト膀胱がんKK47細胞を用いて前記薬剤のPLDR阻害率を調べたところ、ara-A、ara-AMPは阻害率、毒性ともに高い結果を得た。さらにara-Aの【N^6】位butyryl,Octanoyl置換体について調べたところ、低毒性、かつ高い阻害率を得た。ヒト骨肉腫細胞はKK47細胞よりもPLDRの規模が大きいことが明らかになったので、今後は本系を薬剤のスクリーニングに用いることとした。骨肉腫細胞はヌードマウス皮下で、ヒトの原発がんに類似した増殖を示すことから、本細胞の移植腫瘍はがんの実験モデルとなり得る。本細胞系を用いて、培養系内でのPLDR阻害剤のスクリーニングを行い、そこで有効性の見出された薬剤が、ヌードマウス移植腫瘍での実験的放射線治療においても有効か否かを判定し得る系が樹立された。現在、ara-Aの有効な置換体についてマウス皮下腫瘍系で調べている。
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