研究概要 |
ヒト核DNA中には、多数のミトコンドリア(mt)DNA配列が存在し、核とmtの間にDNAレベルでの相互作用が存在することを示している。我々はヒトmtDNAのURF4,tRNAクラスター,URF5を含む領域、URF2領域、チトクロームオキシダーゼ【I】,【II】領域及び16SrRNA領域の4種をプローブに、ヒト遺伝子ライブラリーから独立に33コの核DNAに組み込まれたmtDNA配例をクローン化した。そこでこれらのDNA構造をmtDNA構造と比較することにより、転移するDNA配列を見出すことを目的に研究を始め、以下の結果を得た。1)ヒト核DNA中にはmtDNAの様々な領域と相同な配列が数百コピー存在することを見出した。2)33コのクローンと上記4種のプローブとの相同性をハイブリダイゼーション法で調べ、核DNA中のmtDNAの長さやmtDNAとの相同性は様々であることを見出した。3)URF4プローブとハイブリッドを形成する4種のクローンの塩基配列構造を決定し、核DNA中のmtDNAには欠失や挿入等の再編成は無いが、多くの塩基置換があることを明らかにした。4)これら核に組み込まれたmtDNA領域の両端にはdirect repeatやinverted repeatはなく、mtDNA挿入部の核DNA配列には重複は認められなかった。またこれら挿入部の核DNA相互及びこれら核DNA配列とmtDNA配列間には相同性は認められなかった。5)これら核中のURF4,URF5に相当するmtDNA中には多くの翻訳終結コドンが見出された。またtRNAクラスター様配列も、RNAポリメラーゼ【III】による転写開始に必要な配列をもたなかった。従ってこれら核中のmtDNA配列は、偽遺伝子と同様に機能を持たないと考えられる。今後これら核中のmtDNA配列を手がかりとして、発癌に関与する転移するDNA配列の検索をすすめる予定である。
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