アミノ酸加熱変異/癌原物質、Glu-P-1を始めとする芳香族アミンの生体内におけるイニシェーション作用機構を知るため、Glu-P-1のN-水酸化体を基質としてin vitro系で各実験動物肝のアセチルCoA依存性活性化能を調べた。その結果、N-OH-Glu-P-1の核酸への結合は調べた6種の実験動物種のうちイヌを除く他のすべての種に認められ、中でもハムスター、ラット、ウサギの肝可溶性画分に高い活性化能が検出された。Glu-P-1の発癌実験に使用されたCD【F_1】系マウスにおける活性はラットより弱いながら、高い発癌率を示す雌性により高い活性(雌>雄1.7倍)が認められた。同様の実験をN-ヒドロキシ-Z-アミノフルオレンを基質として行なったところ、N-OH-Glu-P-1の場合とは異なりモルモットやマウスはラットよりも高い活性を示した。これらの結果および精製標品を用いた実験から、各種実験動物の肝可溶性画分に存在するアセチルCoA依存性アリルヒドロキシルアミン活性化酵素はその基質特異性が動物種間で異なり、かつ複数の酵素種が同一種に存在することが示唆された。またラットおよびハムスターの肝、肺、腎、小腸粘膜および膀胱の活性化能を比較したところ、肝に最も高い活性が認められたが、上記の肝以外の臓器にも比較的高い活性が検出された。本酵素の酵素学的性質については我々が既に明らかにしたSalmonella菌体内のO-アセチル転移酵素とは幾つかの点で異なっていた。アセチルCoA要求性の他のアセチル化酵素との異同については、芳香族アミンのN-アセチル化能を欠くイヌあるいは遺伝的に低いN-アセチル化能を示すウサギでの実験等から、本酵素はN-アセチル転移酵素と類似性があり、ウサギでは共通の遺伝的支配を受けていることが示唆された。以上の結果より、芳香族アミンの癌原性発現へのO-アセチル化の関与が強く示唆された。
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