T細胞の腫瘍化に伴う膜抗原の発現機序を明らかにする目的で以下の実験を行い成果を得た。まず、ハイブリドーマ作製技術を駆使してマウスT白血病細胞抗原、FT-1、FT-2を同定した。特にFT-1抗原は多くの白血病細胞株(17株中9株)表面に発現され白血病細胞関連抗原の性質を示した。また両抗原とも白血病細胞以外にマウス胎齢期胸腺細胞に発現され、胸腺発生初期の細胞群を分類する上で有用であることが判明した。次に抗原の生化学的解析のために各種アイソトープラベルを行い分子量を決定し、糖鎖の有無やその結合様式を明らかにした。その結果、FT-1抗原は分子量10万の糖蛋白でありNグリコシレーションよりむしろOグリコシレーション型の糖鎖を保有していた。さらにFT-1抗原遺伝子をクローニングするために以下の実験を試みた。T白血病細胞からmRNAを単離してcDNAを作製しpUC8発現ベクターに組み込んだ。このベクターを大腸菌に感染させFT-1抗体と【^(125)I】2次抗体でスクリーニングを行ったが、抗原を発現する明確なコロニーを同定できなかった。このことはcDNA作製時に用いた【S_1】-nucleaseによりcDNAを切断し、抗原エピトープの合成が不完全である可能性が考えられるためSV-40プロモーターを含むOkayama-Bergベクターを作り、哺乳動物細胞で発現させポリクローナル抗体によるスクリーニングを行っている。同時に抗原のN末端アミノ酸の解析から合成プローブの作製も試みている。FT抗原はT細胞の分化とともに消失し腫瘍化に伴って再び出現することからT細胞の癌胎児性抗原と考えることができる。その機能は不明であるがT細胞が著しい増殖を示す時期に対応して発現されることからT細胞の増殖に関与するレセプターや発癌遺伝子産物との関連も否定できない。今後、T細胞の腫瘍化を考える上でFT抗原のより詳細な解析とそれらの発現機序や生物学的役割を解明することが急務であると考えられる。
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