腫瘍細胞による細胞増殖因子、阻害因子の産生に注目して、これらの腫瘍増殖における役割を解明すべく研究してきた。我々は既にトリ肉腫ウィルスで腫瘍化したラット細胞77N1が新しいタイプのtransforming growthfactor(TGF)を産生していることを見出し、これを精製単離してTGFγ2と名づけその構造・作用機構について研究した。本年度腫瘍化株77N1とその正常親株NRKを用いてそれぞれにおけるTGFγ2の発現を調べた所、NRKも細胞内にはTGFγ2を合成しているが細胞外への分泌は腫瘍化株に限られること、腫瘍化株の細胞内、細胞外型TGFγ2を比較した所、免疫学的およびSDS-PAGEでの分子量は共通であるものの中性緩衝液中では異なる荷電・分子量を示すことが判明した。即ちTGFγ2は細胞外へ放出されるに伴なって何らかの分子修飾を受けていることが示唆され、この修飾機構と細胞腫瘍化との関連を追求中である。 TGFγ2産生細胞である77N1は同時にこれに対する阻害因子をも産生していることが判明し本年度これを部分精製して、sarcoma growth inhibitor(SGI)と名づけ作用様式について検討を加えた。この因子は酸性側に等電点を持つ分子量20K程度の蛋白質でTGFγ2によってBALB3T3に誘導されたDNA合成、TGFγ2およびTGFβによって誘導された軟寒天内コロニー形成のいずれも阻害した。しかし血清、EGFによって誘導されるDNA合成は阻害しないのでTGFに特異的な阻害因子であることが示唆された。SGIは誘導されたコロニー形成のみでなく腫瘍細胞による自発的コロニー形成をも阻害することが判明した。マウスおよびラット由来の7株の腫瘍細胞のうち2株は20μg/mlの濃度まで影響をうけなかったが他の5株(77N1を含む)のコロニー形成は抑制をうけ2〜20μg/mlでほぼ完全に阻害された。SGIは今後腫瘍増殖抑制物質としてのみならず腫瘍細胞の増殖調節機構を探る試薬としての活用も期待される。
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