研究概要 |
発生過程の胸腺リンパ腫は胸腺微小環境依存性増殖を示す段階を経て進展するが、この過程は正常胸腺リンパ球の胸腺内分化と対応して理解することが重要である。胸腺間質細胞との共生培養により樹立したAKR自然発生胸腺リンパ腫株25系統について、胸腺リンパ球分化抗原(Thy-1,Tpre,Tthy,Tind,Tsu),TdT,1L-2Rの表現をFACSを用い分析し、リンパ腫の表現型にはT細胞の分化のあらゆる段階に相当するものがあること、培養経過を通じ安定したものが多いが、株によってはTPA等により表現型・量の変動を誘導出来るものがあった。またT細胞レセプター遺伝子を分析したところ、大部分の株では、α,β,γ鎖遺伝子は再構成を示した。しかし各遺伝子のmRNAの分析ではα鎖mRNAは9/10に陽性であったが、β鎖は0/10,γ鎖2/10にしか検出されなかった。またThy-1遺伝子の表現では正常T細胞にはみられない異常なmRNAが検出された。生物学的意義については検討中である。 一方、胸腺微小環境構成細胞をモノクローナル抗体により同定し、正常胸腺および白血病発生過程における変化を検索した。これまで得られたラット抗マウス胸腺間質細胞特異的モノクローナル抗体のひとつB6TS-1は胸腺の被膜下層,皮髄境界部,髄質の細血管に随伴する形態的にユニークな上皮細胞と特異的に反応し、胸腺保育細胞とも反応を示した。胎児胸腺原基ではこの抗原陽性細胞は胎齢16日まではびまん性に分布しているが、17日齢以降は被膜下層と髄質に分布域が解離する。ところが胸腺リンパ腫発生過程ではふたたび増殖しびまん性の分布を示すに至るという特徴的な変化を見出した。この所見は発生期の胸腺リンパ腫は胸腺上皮細胞と共生複合体を形成しそれに依存して増殖・進展するとする我々の仮説にみあうものと思われる。更にリンパ腫発生期の胸腺微小環境の変貌の形態的・機能的特性を明らかにすることによりリンパ腫の進展機構を解明したい。
|