研究概要 |
貯留により水を治めるのか排水により水を治めるのか、両者を併用するとすればどのような考え方で治水機能を分担させるのか-個々の河川計画策定の都度、幾多の議論が続けられてきたが、この簡明かつ治水計画上の基本的な問題に対して、いまだ明確な結論・指針は示されていない。本研究ではこの問題について水理水文学的、治水経済学的検討を行い、もって貯留をともなう治水システムの安全度、貯留施設(ダム,遊水池等)と排水施設(河川,トンネル,ポンプ等)の間の機能分担のあり方について、具体的な評価の手法,指針を与えることを目的とする。 極端な例を考えよう。排水施設がなく貯留施設のみにより治水を行うとすれば、全流量を一滴も流すことなく貯留しなければならないから、総流量(総雨量)を確率評価し、ある生起確率に対応する総流量を貯えることができるだけの容量を持つ貯留施設を備える必要がある。逆に排水施設のみによる場合はピーク流量(ピーク雨量)の確率評価により排水施設容量を決定すればよい(現行の方式)。両者を併用する場合は当然、総流量・ピーク流量の結合分布に基づいて安全度評価を行うべきである。江藤・室田・中西はこの様な考え方に基づいて等危険度線の式を導いた。等危険度線とは「治水安全度をある水準に保つに必要な貯留施設容量と排水施設容量の関係を表す曲線」である。極めて簡便な解が得られ、大阪平野の治水計画への適用によりその高い実用性が実証された。さらに、等危険度線の理論をわが国のいくつかの地点の水文資料に適用し、実用時に必要な各パラメータ値の地域による差を調べた。同時に浸透施設を含む場合等に対する理論の拡張経済性をも考慮した最適治水機能分担線の理論の実用化を行った。
|