陸地周辺と海域とを分離して津波の数値計算を行う場合、まず問題となるのは分離境界線上での境界条件の与え方である。そこで本研究では、まず簡単のために1次元波動場について取扱い、境界条件の与え方の相異による津波の遡上高の差異について理論的に評価した。具体的には、一様斜面上で分離境界線上に仮想鉛直壁が存在するものとして沖側の長波の波動場を解き、(1)境界線上で沖側の水位と陸側の水位とを接続した場合および(2)同じく境界線上で沖側の汀線方向に進行する波動成分のみによる水位と陸側の水位とを接続した場合の2ケースについて遡上高の誤差について調べた。その結果、前者の場合には分離境界線の汀線からの距離によって共振現象が生ずる場合があり、また全体的にも誤差は大きいことが認められた。それと比較して後者の方は、遡上高の最大誤差は20パーセント程度であり、仮想境界線の位置を適切に決めることによってその誤差を5%程度にまで小さくすることも可能であることが判明した。 次に、津波が斜めに入射する場合の境界条件の算定方法について新な方法を提案した。すなわち、これまで1次元伝播の波動に対してのみ特性曲線法を用いた境界条件の算定が行われていたが、本研究ではそれを2次元伝播の波動場に対しても適用できるように新な関係式を誘導した。それにより斜め入射する津波の数値計算が可能となった。なお、2方向以上の波が計算領域内から領域外へと伝播する場合には、境界線より一部が反射する現象が見られた。 以上のことより、領域を分割して津波の数値計算を行う場合には、分離境界線を津波の周期や海底勾配に応じて汀線からの距離を適切に決定し、その境界線上において沖側の汀線方向に進行する波動成分を入力波として計算すれば比較的精度よく計算ができることが明らかとなった。
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