研究概要 |
環境因子に対する未分化な胎生組織の感受性をヒトとラットの間で比較するため、双方の胎児から得た四肢原基をヌードマウスの皮下へ移植し、各種化学物質に対する移植片の感受性を調べた。 妊娠14日のWistar系ラット胎仔の上肢原基を細切してヌードマウスへ移植した後、7,9,11日目にヌードマウスへ諸種の化学物質を投与し、移植後20日目に移植片を摘出して検索した。その結果、シクロホスファミド、5-フルオロウラシル、ヒドロキシウレア、シクロヘキシミド、プロスタグランディンは、いずれも用量に応じて移植片の発育と組織分化を抑制し、アスピリンおよびカフェインによっては軽度の抑制が見られた。この実験における毒性発現用量は、in vivoにおけるラットの催奇形用量に近い値を示した。一方、サリドマイド投与によっては、移植片の発育と分化は障害されなかった。すなわち、移植されたラット四肢原基は、化学物質に対して、in vivoの発生毒性をよく反映する感受性を示し、器官原基の移植実験法が発生毒性検出系の一つとして有用であることが確かめられた。 次に、人工流産によって得られたヒト胎芽(推定受精齢6〜7週)の四肢原基をヌードマウスの皮下へ移植し、そのヌードマウスヘシクロホスファミドを数回にわたって投与した。その結果、シクロホスファミド(〜120mg/kg)投与群における移植片の発育と分化は、非投与対照群との間に差がなく、このことから、ヒトの四肢原基はラットのそれに比べて、本剤に対する感受性が低いと推定された。 なお、移植下におけるヒト胎児組織の分化は、ラットの組織に比べてかなり遅く、移植原基の分化速度が、ヒトとラットの間で異なることが示された。このことが、両種組織の感受性が異なる理由の一つである可能性が示唆された。
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