研究概要 |
同じ環境因子に暴露されても、生体の示す反応には個体差があり、人体影響を強く受ける集団と比較的抵抗性を示す集団が存在する。ここでは前者を高感受性集団と呼び、この集団を他から区別している遺伝要因を明らかにすることを目的として以下の研究を行なった。 1.遊離硅酸に暴露された大分県の集団 大分県佐伯市および南海部郡の成人男子31,199人中2,566人(8.2%)が硅肺症を中心としたじん肺症に悩んでいる。同一環境下でも硅肺症を発症しない群、発症してもその進行が緩徐な群あるいは急速に進行する群などが存在するが、これらの集団の遺伝学的特徴を明らかにするためHLA-ABC抗原系の検索を行なった。硅肺症91名において、HLA-A24の抗原頻度が有意に減少したのに対し、HLA-Bw54が健常対照群に比し有意の増加を示した(P<0.007)。さらに胸部X線上、進行の急速な群(N=11)では、Bw54の有意の増加を観察したが、症状の安定な群(N=18)ではBw54の増加は観察されなかった。これらのことは、硅肺症の発症、あるいは症状の進行に遺伝要因が関与しており、おそらくHLAと連鎖した主遺伝子が存在することを示唆している。さらに免疫応答性を直接支配していると考えられるHLA-クラス【II】抗原系について現在検討中であるが、日本人集団では、患者群で増加していたBw54がDR4-Dw15と連鎖不平衡にあることから、HLA-DR4と患者群との相関が予想される。 2.日本住血吸虫に感染した山梨県の集団 山梨県韮崎市の感染集団のうち、感染後肝硬変に比較的抵抗性と考えられるHLA-DR2-Dw12陽性で、虫体抗原に対する非応答者の免疫応答性を詳細に解析した。サプレッサーT細胞により免疫応答性を抑制されている非応答者の末梢血リンパ球の培養系に、抗HLA-DQ単クローン抗体を共培養すると応答性が回復したことから、虫体抗原特異的免疫抑制にHLA-DQ分子が重要な役割をしていることが示唆された。
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