研究概要 |
歯科治療で用いられる金属補綴物の鋳造、研磨時発生する金属フューム、粉塵の毒性、歯科治療室、技工室の汚染の実態を明らかにするため、市販のBe含有NiCr合金(Ni59,Cr15,Co15,Mo7,Be1.2重量%)を用い、鋳造時発生するフュームを採取し〔1〕フュームの組成分析、〔2〕フュームおよび合金微粒子の培養マクロファージに対する細胞毒性、〔3〕合金溶解物の変異原性について検討した。 〔1〕合金42gを高周波遠心鋳造器で溶融し、発生するフュームを鋳造器上に設置した孔径0.2μmフィルター付エアサンプラーで10l/分、6分間採取した。フィルターはNi,Cr,Co,Beがそれぞれ1.48±0.15,3.02±0.350.33±0.07,2.82±0.41μg含有していた。従って鋳造器上部環気中では24.7±2.6,50.3±5.8,47.0±6.8μg/【m^3】空気の濃度となり、Beは0.034μg/g合金/分蒸発する。 〔2〕上記のフィルターを浸漬した培地または合金微粒子30〜300μg/ml添加培地中でマウス腹腔マクロファージを18時間培養した。フィルターを浸漬した培地中でマクロファージは空胞変性した。合金微粒子30μg/ml投与により細胞の伸展が抑制され空胞が出現し貧食された粒子が認められた。またエネルギー分散型走査電顕により金属の分析を行い細胞内部に微粒子が存在し、Ni,Crが検出された。合金微粒子は培地中でNi,Cr,Co,Beを溶出するので、細胞障害は粒子の貧食によるものの他培地中に溶出した金属による可能性もある。 〔3〕チャイニーズハムスター肺由来し79細胞を用い、Chuらの変異原性試験を行い合金3.1,12.5,25,50,200μg/mlにおける突然変異頻度は1.42,2.81,1.86,4.31,12.29であり、合金溶解物は細胞生存率に影響しない低濃度で突然変異頻度を上昇させたが、変異原性は軽度であった。 以上の結果から、NiCr合金鋳造中には細胞毒性、変異原性を有する組成金属が蒸発することが明らかとなった。
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