アフリカツメガエルの雌と雄に生殖腺刺激ホルモンを注射して受精卵を得た。まず、胞胚期の胚を様々な濃度の酢酸鉛の水溶液に浸漬し、曝露後24、48、72時間後に死亡胚数を調べ、生存胚については発生段階と異常の有無を検索した。1mg/l以上の濃度では曝露後24時間で濃度に対応した異常が多発し、72時間後までにほぼ全胚が死亡した。0.1mg/l以下の濃度では対照群と比べて差が認められなかった。曝露後24時間で出現した異常は種々の程度の神経管形成障害であり、この障害を有する胚は曝露後48時間以内に死亡した。神経管形成がなされたものについても屈曲異常や水腫等の異常が曝露後48、72時間で観察された。次ぎに嚢胚期、神経胚期、尾芽期および孵化直後の幼生期に曝露を開始する実験を行った結果、死亡と異常が出現する濃度に関し胞胚期からの曝露のものとほぼ同様の結果が得られた。出現した異常としては嚢胚期および神経胚期からの曝露のものでは胞胚期からの曝露のものと同様であり、尾芽期および孵化直後の幼生から曝露を行ったものでは胸腹部から組織が崩壊して死亡するものが多く、生存しているものでは屈曲異常や水腫などの異常が認められた。鉛はヒト、マウス、ラットやニワトリ胚で神経系への影響が報告されており、今回のアフリカツメガエル胚において神経胚期までの時期の胚を酢酸鉛に曝露した場合の早期死亡の主な原因は神経管形成障害であったので、胞胚期より曝露して経時的に試料を採取し、神経管形成過程における影響を主に走査型電顕を用いて検索した。酢酸鉛曝露群では原口の背側部に変性細胞が観察され、原口の閉鎖が完了した神経胚期のものでは神経溝の部位にまず変性細胞が出現し、次いで神経板の部域に変性細胞の出現が拡大した。以上の結果より、アフリカツメガエルの胚および幼生は多数の環境化学物質について迅速、安価、簡便に発生毒性を試験できる検索系の1つとなりうる可能性が強く示唆された。
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