光増感電荷分離機能を有する透明な高分子膜を作成し、これを用いた光電荷分離について検討した。光電荷分離システムを内臓する媒体として、EDTAをペプチド結合したアミノスチレン、2-ビニルピリジン、スチレンの三元共重合体(PETA)を合成し、成膜した後Ru【(bpy)(^(2+)_3)】およびメチルビオロゲン(【MV^(2+)】)を吸着させた(PRM膜)。乾燥したPRM膜またはAr飽和水溶液に浸したPRM膜に可視光を照射すると、メチルびオロゲンラジカルが急速に生成する。膜上に生成した【MV^+】の生成量は、本研究費で購入した日立150型分光光度計を用いて測定した。PRM膜系における【MV^+】の初期生成速度は、対応する均一水溶液系に比べて、約5〜10倍に達することを見出した。PRM膜中では、ドナー、光増感剤、アクセプターが局所的に濃縮されているため、Ru【(bpy)(^(2+)_3)】の励起種から【MV^(2+)】への電子移動反応の速度が速くなると共に、EDTAとRu【(bpy)(^(2+)_3)】が靜電的に結合しているため、電子移動によって生成したRu【(bpy)(^(3+)_3)】が素早くEDTAによって還元され、いわゆる"逆反応"の割合が著しく減少するためと推定された。 PRM膜を酸素を含む水に浸して可視光を照射すると、水中に過酸化水素が生成する。その生成速度は、対応する均一水溶液系とほぼ同程度であった。この場合、均一系でも低分子量EDTAとRu【(bpy)(^(2+)_3)】はイオン対を形成し、また膜中では酸素分子が濃縮されにくいので、膜系の電荷分離効率は、均一系と同じ程度になる。 すなはち、どナーと光増感剤が近傍に存在し、さらにアクセプターが濃縮されている透明な膜を用いれば、光電荷分離効率の大きな光増感膜として機能することがわかり、高効率の光増感膜設計に対する有益な知見が得られた。
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