研究概要 |
本年度は、昨年度に引続いて基本となる分子内電子移動系、D〜【A_1】〜【A_2】及びD〜Aの剛体溶媒中での光電子移動及び電子リレー挙動を更に詳細に調べて分子内光電子移動リレー系のもつ特性を明らかにした。また分子内光電子移動系をドープする媒体として高分子が有すべき特性を明らかにした。具体的成果は以下のとうりである。 1.剛体溶媒中における分子内光電子リレー系(カルバゾール)-【(CH_2)_3】-(テレフタル酸)-(【CH_2】)m-(アントラキノン)(m=4,6,8;D〜【A_1】〜【A_2】)の光電子移動挙動を調べて次の点を明らかにした。(1)光電荷分離によって生じたイオンの再結合を抑制し、イオンの寿命を飛躍的に延ばすことができる。(2)多段階電子移動であるので各段階での損失がないようD,【A_1】,【A_2】を適当に選択する必要がある。(3)D,【A_1】,【A_2】間のポテンシャル勾配は電子リレーに必須である。このポテンシャル勾配が大きすぎると全自由エネルギーを損失するので、適当なポテンシャル勾配にする必要がある。 2.高分子膜中での分子内光電子移動挙動を調べて次の点を明らかにした。(1)種々の高分子固体の誘電率を蛍光プローブの蛍光極大波長のシフトから測定したが、室温では約8以下であり、高分子媒体の極性で決定されるような光イオン化を期待することはむつかしく、むしろ適当な分子構造設計を目指す必要がある。(2)分子内光電子移動で生成したイオンは、再結合により消失するが、この再結合速度はポリマーの分子運動により著しい影響を受ける。従って高分子媒体の選択にあたっては転移温度に注意する必要がある。(3)高分子固体中にドープしたD〜A系の光電荷分離挙動を検討した結果、高効率な光電荷分離を達成するためには、高分子媒体中に分子内光電子移動系を凝集することなくドープする必要がある。
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