研究概要 |
ヒトに於けるトリチウム摂取影響のモデル系として乳児期のマウスを用い、母体を介して取り込まれたトリチウムの代謝及び残留トリチウムによる被曝線量の評価、特に有機結合型トリチウムの線量寄与の評価を行う。 ほ乳期の母マウスに出産直後より離乳時(仔マウス3週令)まで経口的に飲料水としてTHO(370KBq/ml)を投与した。離乳後の仔マウスを経時的に屠殺し、各種臓器、各種生体生分中のトリチウム残存濃度を測定した。 いずれの臓器に於ても出生後10〜15週令時には、残存トリチウム濃度は当初の濃度の1/100〜1/1000になる。 3〜10週令での残存トリチウムの主成分は酸可溶性成分であるが、10〜15週令目に於ては、リピド,DNA,タンパク成分が主成分となる。 分布成分は臓器特異性があり、肝,腸,腎においてはDNAであり、肺及び心臓においてはタンパクである。特に脳においては、残存トリチウムの70〜80%がりピド成分に分布する。得られたトリチウムの残存曲線は3成分指数曲線モデルで近似した。各分子成分がそれぞれ3つの指数減衰成分で説明されることは、少くとも3個のコンパートメントの存在を意味する。 各分子成分ごとのトリチウム残存理論曲線から全蓄積線量への各成分の寄与を計算した。酸可溶性成分はその97%以上が自由水成分であるので、事実上自由水成分を代表し、酸不溶性成分は有機結合型トリチウム成分を代表していると考へてよい。酸不溶性成分のトリチウムの全線量への寄与は、脳以外の臓器では16〜21%、脳では約42%であった。得られたトリチウム残存曲線は、細胞の増殖,再生,代謝囲転を反映しているものであり、従って長期間飼育後の残存トリチウムは細胞内、組織内で一様に分布しているのではなく、細胞オルガネラ間で局在して存在しているものと考へられる。
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