研究概要 |
本研究は、トリチウム水による核酸の分子レベルでの損傷が、どのように核酸の生物的活性を不活化するかを明らかにする目的で行われた。本年度は、核酸の損傷、特にトリチウム水による一本鎖切断について調べられ、次のような結果を得た。試料はpBR322DNAを緩衝液中で用い、分析は、アガロース電気泳動法で行なった。 1.特に低線量率での一本鎖切断が調べられ、G値が求められた。線量率は、1μCi/ml, 10μCi/ml,100μCi/mlなどであり、G値は、線量率の減少と共に、次第に増加していく事が認められた。 2.トリチウム保存中に生成すると予想される過酸化水素が、一本鎖切断の効率を高める可能性を検討するために、カタラーゼ処理をしたトリチウム水と、しないものとを用いて比較検討した。トリチウム濃度50mCi/ml,100mCi/ml の照射結果によれば、過酸化水素の存在が、一本鎖切断の効率を特に高めるという事は、認められなかった。 3.トリチウムのベータ線照射による水の二次分解生成物、特にOHラジカルが、一本鎖切断に寄与しているかどうかを確認するために、OHラジカルスカベンジャーである、KI,D-マニトールの添加効果を調べてみた。その結果、スカベンジャーによる保護効果が、顕著に認められ、水溶液中DNAへのトリチウムベータ線による照射の場合にも、OHラジカルが少なからず関与している事がわかった。 さらに、来年度の研究のための予備実験として、次のような事を行なった。 1.X線照射したpoly-Cを、高速液体クロマトグラフィーで分析し塩基の損傷の効率を求めた。 2.トリチウム照射したpBR322DNAを大腸菌に取り込ませ、アンピシリン耐性の変化を調べた。
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