今年度は、本特定研究第1班の一員としての活動が主であった。すなわち、毎月1回行われた研究会に出来る限り出席し、討論に参加するとともに、11月には、この研究会を北海道大学で行い、自らの研究成果を報告した。 私が今年度この研究を通じて明らかにした知見は次の通りである。 1.交通事故の法規制による抑止の問題は、刑事学、犯罪学の観点から見れば、「サンクションによる犯罪の抑止」の問題である。しかし交通事故の抑止という観点からは、交通違反件数が事故件数の代理変数とみなしうるかという問題がある。 2.多くの政策実験の結果からすれば、サンクションの確実性の増大は、その点に関する人々の主観的知覚を高める努力の存在が伴えば、交通違反の件数を減少させると言いうる。しかし、刑罰の厳格性の増大にはそのような効果はない。3.業務上過失致死傷に対して拘禁刑(懲役・禁錮)を科することは交通違反の抑止という観点からは意味がない。特に拘禁刑の被拘禁者に対する稿正効果については全く疑問である。 4.サンクションによって交通違反を抑止しうるとしても、そうすべきかどうかは別の問題である。そのためには「効率」と「非刑罰化」という2つの全く異った問題を解決する必要がある。 5.「非刑罰化」は科学の問題ではなく、イデオロギーの問題であるからここでは論じない。 6.「効率」の問題を操作化可能なレベルの問題に翻訳すると、それは法の問題である。そして、運転者が危険中立であるという仮定のもとで、発覚した場合の負の効用(それは確率付きであり、例えばアメリカでは酒酔いで捕まる確率は【1/50】〜【1/100】である)が小さく、違反をした場合の効用が大きい場合(例えば駐車違反)-そして多くの違反はこのタイプのものである-においては、法執行のコストを考慮するとサンクションによる交通違反の抑止は合理的な方法とは言えない。
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