研究概要 |
昨年度の研究成果をふまえて、今年度は有機蒸着膜とLB型累積膜のペニングイオン化電子分光(PIES)と紫外光電子分光(UPS)によるキャラクタリゼーションの技術を発展させた。有機蒸着膜の試料としては、鉄フタロシアニン(FePc)、ステアリン酸鉛(【$(】C_17【】H_35【】CO_2【)_2】$Pb)、パーフルオロステアリン酸(【C_(17)】【H_(35)】【CO_2】H)およびテトラテトラコンタン(【C_(44)】【H_(90)】)を用いた。またLB膜の試料としては、ビオロゲンの二つのアルキル基の末端にピレンやフェロセンをつけた分子を用いた。 まずFePcについては、グラファイト基板とステンレス基板上の蒸着膜のスペクトルを研究した結果、グラファイト基板上の超薄膜(1〜数層)では分子が基板面に平行に配列すること、またステンレス基板上では分子は基板面に斜めに配向することが確められた。さらに両者のペニングスペクトルの比較から、鉄のd軌道とリガンドのπおよびσ軌道の立体電子分布についての情報が得られた。 【$(】C_17【】H_35【】CO_2【)_2】$Pb,【C_(44)】【H_(90)】等の長鎖状の化合物は、それらに含まれるアルキル基が多くのLB膜試料で疎水基として用いられるので、LB膜のキャラクタリゼーションのための基礎データを集める目的で研究した。その際アルキル基の基板に対する向きを制御するため、金属、酸化ケイ素、グラファイト等の基板上に種々の温度で蒸着膜を作りペニングスペクトルを測定した。その結果、スペクトルの強度分布とアルキル基の配向との間に顕著な相関関係が見出された。またこの関係はMO計算によっても説明された。なお以上の結果はLB膜の分子配向を調べる際に極めて有用なデータとなり得る。 最後にビオロゲン系の化合物については、水面上に展開した試料から累積膜を作り、そのPIESを研究した。その結果、膜中の分子構造や末端基の配向について、他の手法では得られない有用な情報が得られた。
|