研究概要 |
受容体刺激をアデニレートシクラーゼに抑制的に伝えるGTP結合蛋白質(Ni)は、百日咳毒素(IAP)によって特異的にADPリボシル化されその機能を失う。Niはこの性質を利用してIAP基質としてラット脳より精製され、同じく脳より精製されたムスカリン受容体と人工脂質膜中で共役することを、昨年度報告した。その後の発展は、Niがアデニレートシクラーゼ系だけでなく、リン脂質代謝回転〜Ca動員系においても共役因子として機能することの発見である。例えば、モルモット好中球の受容体を走化性ペプチド(fMLP)で刺激すると、ホスホリパーゼCの活性化によってホスファチジルイノシトール-4,5-【P_2】が分解し、生成するイノシトール-1,4,5-【P_3】が細胞内貯臓部位からCaイオンを動員して、活性酵素生成や貧食応答をひきおこす。好中球をIAPに接触させて細胞膜中のNiをADPリボシル化すると、この応答はすべて抑制されることからNiがfMLP受容体とホスホリパーゼCとの間に介在するものと結論づけられた。この新知見は、好中球細胞膜を使用する次の実験から確められた。すなわち細胞膜標品の高感受性GTPアーゼ活性はfMLPによって増加する。この増加は膜をIAP処理すると消失するが、コレラ毒素では変化しない。コレラ毒素基質であるNsではなく、IAP基質であるNiがfMLP受容体に細胞膜中で直接共役していることが示された。ラット脳より精製したNiをIAP処理膜に埋め込むと、Niの量に比例してfMLPで誘導されるGTPアーゼ活性は回復し、対照膜と同じレベルに達した。さらに、標識fMLPの細胞膜への結合の親和性はGTPが存在しない時に限ってIAP処理で減少した。Gpp(NH)p(GTP非水解性アナログ)によって親和性を低下させておいた時(すなわち受容体からNiを脱共役させておいた時)にはIAP処理は無効であった。このように好中球細胞膜ではNiがfMLP受容体に共役していることが証明された。
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