研究概要 |
咀嚼は食物から栄養素を得るための消化の重要な1ステップである。したがって、いずれの動物も食品の味、硬さ、弾性など食品の物理化学的な性状に適合した咀嚼を行っている。このように食品の感覚機能に適した咀嚼運動誘発の神経生理学的機構の内、本年度は特に大脳皮質咀嚼野の生理的および組織的特性を解明することを目的とした。得られた結果は以下の通りである。 1.ウサギの大脳皮質咀嚼野に20〜60HZ,30μA以下の微小電気刺激を与えると種々なパターンのループ状顎運動がリズミカルに誘発された。これらの運動は同時に記録した咀嚼筋筋電図をも参照にすると開口筋活動優位性の運動(開口優位運動)と閉口筋活動優位性運動(閉口優位運動)の2種類に大別することが出来た。 2.開口優位性運動は主として皮質咀嚼野の背内側より、また閉口優位性運動は皮質咀嚼野の腹外側部より誘発された。したがって、咀嚼野内においても機能の局在があると云える。 3.フォルマリン固定、cresyl violet染色の脳切片標本を作製し、咀嚼野の細胞構築を調べた。咀嚼野は典型的な皮質運動野とは異って、【IV】層の顆粒細胞層が存在し、特に腹外側部では層が厚かった。したがって、皮質咀嚼野は感覚野としての性質をも備えていると云える。 4.咀嚼野内のニューロンの口腔顔面感覚刺激に対する反応を微小電極記録法を用いて調べた。このために本年購入した差動型前置増巾器読取顕微鏡、ファイバー照明装置を用いた。咀嚼野の背外側部では下口唇,舌尖,切歯などの触・圧刺激に反応するニューロンが存在した。一方、腹外側部では臼歯や口蓋の圧刺激に反応するニューロンが多かった。これらの結果を誘発顎運動パターンと比較すると開口優位運動誘発部は口腔前方より、また閉口優位運動誘発部は口腔後方より感覚入力を受け運動出力と感覚入力の対応が見られた。
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