研究概要 |
酵素法によるエステル交換は、有機化学的な方法ではランダムな交換しかできないため、酵素が示す基質特異性が重要視される。 われわれは強力なリパーゼ生産菌であるSaccharomycopsis lipolyticaの菌体結合リパーゼ(1,3位特異性)を用い、エステル交換をする反応系を確立した。この系の特色は、酵素回收の手間が省けること、比較的少量のリパーゼで反応を行えることなどである。菌体の調製は、リパーゼを十分誘導したのち、0.85%食塩水と冷アセトンで洗滌することによって行った。反応の最適phは8.0、最適温度は35℃で、だいたい加水分解の条件と一致した。細胞表層の性質が変化したと考えられる、本菌の変異株でもエステル交換を試みた。オリーブ油に対するステアリン酸のとり込み率は、親株に比べ必ずしもよくないが、トリグリセリド組成が異なっている可能性もあり、今後の検討を要する。 脂肪酸に対する特異性を調べた。飽和酸の場合はトリオレインに、不飽和酸の場合はトリパルミチンにそれぞれの脂肪酸をとり込ませたところ、オレイン酸が最も速く導入された。パルミチン酸はステアリン酸より遅く、【C_(20)】の酸は飽和、不飽和ともわずかしかとり込まれなかった。 アルコリシスを試み、アルコールに対する特異性を調べた。グリセリンをはじめ、各種のグリコール,コレステロール,高級アルコール,糖,メントールなどを試み、エステル交換が確認されたのは、一部のグリコールであった。 エステル交換の作用機作を考える上で重要な水の必要濃度を検討した。反応系に含まれる成分のうち、液体のものはモレキュラーシーブス3Aで脱水し、酵素を含め固体のものは真空下【P_2】【O_5】上で乾燥した。反応液全体の平均水濃度が1%のとき最大速度が得られ、0.1%以下では全く活性が認められなかった。
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